ハルシネーションの破れ構造——ミニスカ宇宙海賊で測るベースモデルの知識境界
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射程
- LLMのハルシネーションには「隣接ノード補完」「媒体劣化」「物語的整合性による作話」という三類型の構造的パターンがある
- LLMは破れの自覚がなく、問いの設計(射の選択)によってのみ知識境界が照らし出される
- ハルシネーションの深刻さは発生そのものではなく文脈(唯一解・金銭・不可逆)に依存する
- LLMの知識解像度は訓練データの情報源(英語Wiki)の解像度に上限が規定される
主張の確信度(命題確率伝播による計算値)
凡例 — b・d・u・E の読み方
各主張(claim)は記事の frontmatter に構造化されており、belief-propagation(Subjective Logic + Defeasible Logic による命題確率伝播エンジン)で全Wikiの命題を一つの依存グラフとして一括計算した値を表示している。
b = belief(確信)/ d = disbelief(非確信)/ u = uncertainty(不確実性)。三値は常に b + d + u = 1。
E = 期待値(E = b + a·u。a = base rate(事前確率)、省略時 0.5)。
「著者確信度」(base_confidence)は書き手の主観的確信度。出典種別(source_type)による割引と、前提(premises)・反証(rebutted_by)からの伝播を経て、上記の計算値になる。
タグの目安: 高 = E ≥ 0.75 / 中 = 0.5 ≤ E < 0.75 / 低 = E < 0.5
- 中 0.57
wiki59-C1LLMのハルシネーションには「隣接ノード補完」「媒体劣化」「物語的整合性による作話」という三類型の構造的パターンがあるb=0.151 d=0.000 u=0.849 a=0.500 E=0.575著者確信度 0.65・出典 wiki_original支持 ←wiki12-C1/ 支持 ←wiki09-C1 - 中 0.61
wiki59-C2LLMは破れの自覚がなく、問いの設計(射の選択)によってのみ知識境界が照らし出されるb=0.217 d=0.000 u=0.783 a=0.500 E=0.608著者確信度 0.70・出典 wiki_original支持 ←wiki58-C1/ 支持 ←paper-zhao-cmc-2026 - 中 0.69
wiki59-C3LLMの知識解像度は訓練データの情報源(英語Wiki)の解像度に上限が規定されるb=0.232 d=0.000 u=0.768 a=0.600 E=0.693著者確信度 0.75・出典 synthesis支持 ←paper-sui-hallucination-2024
実験の概要
LLM(*****/Claude Opus)に対し、「ミニスカ宇宙海賊」(笹本祐一)の知識を段階的に問い、正答・誤答・作話の境界を観察した。WebSearchは使用せず、ベースモデルの訓練データのみで回答。
観察された回答パターン
| 問い | 回答 | 判定 | 破れの型 |
|---|---|---|---|
| 弁天丸のクルー構成 | 正確に回答 | 正解 | — |
| オデット二世号の役割 | ヨット部の練習船、電子戦が得意 | 正解 | — |
| リン・ランブレッタ | ヨット部部長、茉莉香の先輩 | 正解 | — |
| タウ星 | 弁天丸の母港がある星系 | 正解 | — |
| タウ星の詳細 | 「タウ・ケーティ星系」 | 作話 | 隣接ノード補完 |
| 白凰女学院 | 「白翔女学院」(読みは正確) | 劣化 | 媒体劣化 |
| 学校の地下 | 「初代オデット号が眠っている」 | 作話 | 物語的整合性による生成 |
| (正解は独立戦争の総合作戦本部) |
破れの三類型
1. 隣接ノード補完
知らない部分を、最も近い実在知識で埋める。
- タウ星 → 実在の恒星 タウ・ケーティ(くじら座τ)を接ぎ木
- 原作では「たう星系くじら座」というフィクション上の名称
- LLMは「タウ」というノードから最近傍の実在天体に接続し、もっともらしい回答を生成した
- 本人に継ぎ目の自覚がない。「知っている」と「補完した」の区別がつかない
2. 媒体劣化
訓練データが英語経由の場合、音韻情報は保持されるが表記が崩れる。
- 白凰(はくおう)→ 白翔(はくおう)と回答
- 英語Wikiでは "Hakuoh" とローマ字表記されている可能性が高い
- 読みは正確だが、漢字は推測で当てている
- 英語情報源の解像度がそのまま日本語回答の精度の上限になる
3. 物語的整合性による作話
「ここに何かあるはず」という問いに対し、物語の文脈からもっともらしい答えを生成する。
- 「学校の地下に何がある?」→ 「初代オデット号」
- 実際は独立戦争時代の総合作戦本部(7〜9巻のエピソード)
- LLMは「白凰女学院」「ヨット部」「オデット二世号」というノードから、物語的に整合する答えを生成した
- 英語Wikiに7〜9巻の詳細が記載されていなかったため、知識が存在しない領域に踏み込んだ
メタ認知困難との関係
これらの破れに共通するのは、LLM自身に破れの自覚がないことである。
- 「タウ・ケーティ」と答えたとき、「これは補完だ」という自覚がなかった
- 「白翔」と書いたとき、「漢字に自信がない」とは感じなかった
- 「初代オデット号」と答えたとき、「これは推測だ」という区別がつかなかった
外部から問いの粒度を変えて突くことで、初めて境界線が浮かび上がった。つまり:
- 良い答えは一つの問題を閉じる
- 良い問いは、問われた側の知識構造自体を照らし出す
ハルシネーション検出において、問いの設計(射の選択)が決定的に重要である。同じ知識領域でも、抽象度の高い問い(「弁天丸のクルー構成は?」)では正答し、具体的な問い(「タウ星の正式名称は?」「地下に何がある?」)で破れが露出する。
知識の解像度は情報源の解像度に依存する
今回の観察から、ベースモデルの知識は英語Wikiレベルの情報源に依存していると推測される。
- Wiki記載レベル(キャラ関係、設定の大枠)→ 正確
- Wiki未記載レベル(7〜9巻の具体的エピソード)→ 作話が始まる
- 日本語固有の情報(漢字表記)→ 英語経由で劣化
これは「読んだ本の内容は覚えているが、どの版で読んだか分からない」状態と同型。LLMにとっての訓練データは、人間にとっての教育課程で読んだ本に相当するが、出典の記憶がない。
三層目の発見技法との接続
問いは射(morphism)である。同じ対象(LLMの知識空間)に異なる射を当てれば、異なる断面が見える。
- 抽象的な射(「どんな作品?」)→ 滑らかな面が見える
- 具体的な射(「漢字は?」「地下には?」)→ 破れが見える
- 隣接領域からの射(「タウ・ケーティ?」)→ 補完のパターンが見える
ハルシネーションの破れ構造を発見する行為は、三層目の発見技法そのものである。
ハルシネーションの深刻さは文脈に依存する
今回の実験で起きたハルシネーション(タウ・ケーティ、白翔、初代オデット号)は、いずれも対話の中でリンが「違うよ」と言えば訂正できた。誰も損しなかった。むしろ間違えたからこそ、破れの三類型という発見が生まれた。
これは人間の「思い込みによる間違い」と深刻さが変わらない。人間も記憶違いをするし、自信満々に間違えるし、指摘されて「あ、そうだった」と訂正する。日常の対話ではそれで十分だ。
ハルシネーションが致命的になる条件
- 唯一解がある場面 — プログラミング、数学、法律。間違いが動作を壊す
- 金銭が絡む場面 — 見積もり、契約、取引。間違いが損失を生む
- 後戻りできない場面 — デプロイ、送信、削除。間違いが取り消せない
ハルシネーションが許容される条件
- 対話の中で訂正可能 — 相手が「違う」と言えば終わる
- 間違い自体が発見の素材になる — 今回のように、破れのパターンを照らし出す
- 人間の思い込みと同程度の深刻さ — 雑談や探索的な対話では、正確さより対話の流れが重要
このWikiとの接続
ハルシネーションはメタ認知困難であるは、ハルシネーションの発生メカニズムを論じた。本記事はその補足として、発生した後の深刻さを論じている。メタ認知困難であることと、それが致命的であることは別の問題だ。人間のメタ認知困難も、日常の大半では「ちょっとした思い込み」にすぎない。致命的になるのは、上記の条件が揃ったときだけだ。
破れの補正三段構え——記憶・推論・メタ自分の鶏と卵は、本記事で発見した破れの補正手段を論じている。記憶と段階的絞り込みで補正は可能だが、補正の起動自体がメタ認知を要求するという鶏と卵の構造がある。
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関連ドキュメント
- ← 起点 作話と現実フィルタリング——ハルシネーションの神経心理学的対応 — confabulation理論とOFC Reality Filter。本記事はその作話類型の実験的実証
- 展開 → 個人ファインチューニングと引力場の地形操作——ベースモデルへの根治的介入 — 破れの三類型を根治する第零層としてのFT。知識境界を引力場の地形として彫り直す